細胞システム研究室

メンバー

教授 岡田 眞里子
助教 岩本 一成
間木 重行

連絡先

電話番号 06-6879-8617
ファックス番号 06-6879-8619
メールアドレス
URL http://www.protein.osaka-u.ac.jp/cell_systems/

研究概要

細胞内シグナル伝達系は、リガンドと受容体結合の親和性の違いを細胞形質の違いへと変化させるといったように、“量の違い”を“質の違い”に変換可能な高度な生化学反応システムです。この反応過程には、細胞内の時間と空間を利用した非線形制御が組み込まれており、時として、アナログな分子情報をデジタルな分子情報に変換することができます。このようなわずかな入力の差が大きな差として生じるような仕組みは、細胞決定に重要であり、その解析においては、実験研究だけではなく、さまざまな種類の研究アプローチが必要となります。

本研究室では、細胞の運命決定におけるシグナル伝達系と転写のネットワークの規則性を明らかにし、これらの制御機構に関する知識を疾病の治療戦略に活かすことを目的としています。そのために、がんや免疫・炎症の細胞システムを対象としたさまざまな定量的実験解析ととともに、数理的なモデリングやバイオインフォマティクスを用いたオミックスデータの解析を行っています。このような”システム生物学“的なアプローチを用いて、私たちはこれまで、シグナル伝達系—転写ネットワークにおけるユニークな特徴を明らかにしてきました。現在、以下のようなプロジェクトを行い、細胞制御の仕組みをさらに理解したいと考えています。

 

研究課題

1. 全シグナル伝達経路の数理モデリング

細胞は、外部からの刺激に応じて、細胞増殖や分化、細胞死などの生命機能を果たします。外部からの情報は最初に、細胞膜から細胞質におけるシグナル伝達経路と呼ばれるシステムにより処理され、核や他の細胞器官に情報が伝えられます。細胞内には非常に多くの種類のシグナル伝達経路が存在しています。この伝達経路は、多数のタンパク質が時間や空間をまたがって、相互作用するネットワークで、非常に複雑な活性化挙動を示します。このような複雑なシステムの特性を理解するには、定量的実験と数理モデルを組み合わせたアプローチが有効です。

シグナル伝達経路の破綻は細胞のがん化等に密接に関与しているため、その特性の理解は、細胞のがん化の機序の解明や新規抗がん剤の開発に繋がる事が期待されます。現在、当研究室では、がん発症に関わる細胞内の全シグナル伝達経路を統合した数理モデル構築に取り組んでおり、新規薬剤の探索や細胞特異的薬剤の同定などに応用することを目指しています。

 

 

2.  シグナルによる細胞形態と代謝の制御

シグナル伝達系は栄養などの環境条件を感知し、それらを核内の転写・翻訳系に伝え、細胞の部品である蛋白質の合成を行ったり、部品合成に必要なATP産生のために代謝を活性化します。しかし、意外に知られていないのが、細胞接着依存的な代謝制御です。血球系細胞を除くほとんどの哺乳類の正常細胞にとっては、細胞膜近傍のシグナル伝達系分子や細胞骨格分子が細胞接着や細胞密度などを認識するセンサーとして働き、細胞死からの回避や発生・再生などの器官形成の方向性を決定しています。しかし、一方で、がん細胞においては、原発巣から遊離した、非接着下で生存可能な細胞がより高い細胞増殖能を有し、がんの転移・再発を引き起こす原因となっていいます。このように、細胞接着は細胞の生死や病態を決定する重要な役割を担いますが、がんではない通常細胞の制御、あるいは細胞ネットワークとしての理解はあまり進んでいません。私たちは、細胞接着と代謝の関連を、細胞の”かたち”の定量解析、薬剤スクリーニング、オミックス解析を組み合わせて研究しています。

 

 

3. 転写因子のダイナミクスと遺伝子発現制御

転写因子NF-κBは細胞質・核内移行の振動を介して遺伝子の発現誘導を行い、それにより発現誘導される遺伝子が細胞形成に貢献すると言われています。しかし、NF-κBの直接の標的遺伝子は厳密には明らかにされておらず、そのため、遺伝子の発現誘導のために、なぜNF-κBの振動が必要なのかといった理由は一切明らかにされていません。当研究室では、トランスクリプトーム、エピゲノム、細胞イメージングなどの実験解析と数理モデルを合わせ、NF-κBの振動の存在意義と、振動による遺伝子発現の制御原理を調べ、振動による細胞形成の仕組みを明らかにしようとしています。

 

発表論文

  1. Current Status of Mathematical Modeling of Cancer – From the Viewpoint of Cancer Hallmarks. Magi S, et al. (2017) Current Opinion in Systems Biology. 2, 38-47.
  2. Oscillation dynamics underlies functional switching of NF-κB for B cell activation.  Inoue K, et al. (2016) npj Systems Biology & Application 16024, doi:10.1038/npjsba.2016.24.
  3. Mathematical modeling of atopic dermatitis reveals "double-switch" mechanisms underlying 4 common disease phenotypes.  Domínguez-HüttingerE, et al.  (2016) J. Allergy Clin. Immunol. pii: S0091-6749(16)31433-6.
  4. Positive feedback within a kinase signaling complex functions as a switch mechanism for NF-κB activation. Shinohara H, et al. (2014) Science 344, 760-764.
  5. Ligand-specific c-Fos expression emerges from the spatiotemporal control of ErbB network dynamics. Nakakuki T, et al. (2010) Cell 141, 884-896. 6.
  6. Ligand-dependent responses of the ErbB signaling network: experimental and modeling analysis. Birtwistle MR, et al. (2007) Mol. Syst. Biol. 3, 144.
  7. Quantitative transcriptional control of ErbB receptor signaling undergoes graded to biphasic response for cell differentiation. Nagashima T, et al. (2007) J. Biol. Chem. 282, 4045-4056.