研究内容

(Research interest in English)Research_e.html
 

【研究概要】

 視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚などの感覚は、私たちが外界にむかって開いている唯一の「窓」です。これらは、環境や異なる個体から受け取ったさまざまな情報を感知して、識別・認識する、生物にとって重要な機能です。生物の「世界観」は、外界との接点に位置するタンパク質が、外界からのどのような情報を認識するかによって決定されていると言えます。私たちは、生物において外界との接点に位置する受容体や輸送体を対象に、構造生物学・生化学・生物物理学的解析を中心とした研究から、これらの分子群の情報認識・情報伝達メカニズムを明らかにし、ひいては生物がこの世界をどのように認識しているのかを理解することを目指しています。


味覚受容体の構造生物学的解析

 味覚は、食物中に含まれる化学物質を感知し、それが生存に必要な栄養素であるか、害となる物質であるかを識別する化学感覚です。この過程で、化学物質認識という味覚の特徴的な過程を担うのが、味覚受容体タンパク質です。味覚受容体には、私たち動物が、何を食べ、何を食べないようにして生き残ってきたかが、分子機能として記録されています。一方味覚は、日々実感する身近な生理現象であるにもかかわらず、味覚受容体の機能や作動メカニズムの詳細には、謎が多く残されていま
す。その理由の1つに、味覚受容体タンパク質の試料調製が困難なため、分子レベルでの構造解析・機能解析が難しい点が挙げられます。私たちの研究室では、味覚受容体で初めて、甘味やうま味の受容体と同じファミリーに属するメダカの味覚受容体タンパク質を、生理的な状態で調製し、モデル分子として立体構造解析やタンパク質レベルでの機能解析を進めています。さらに、ヒトも含めたさまざまな動物の味覚受容体の構造・機能解析を進めることで、多様な味物質認識メカニズムと、その情報を生体内に伝えるメカニズムの解明を目指しています。


味覚受容体の生理機能の解析

 味覚受容体は、口腔内だけでなく、生体内のさまざまな器官・組織に発現しており、その化学物質応答能を利用して、それぞれの組織で何らかの生理機能を担う可能性があると考えられています。一方その生理機能の多くは未解明です。私たちの研究室では、受容体構造解析でも利用したメダカをモデル動物として用いることで、味覚受容体が生体内でどのような生理反応を誘起し、どのような表現型を生み出しているのかを、分子構造レベルから個体レベルにわたって解析しています。


腸内細菌の輸送体の構造生物学的解析

 私たちの内なる外界である腸内には、私たち自身を構成する細胞数を超える腸内細菌が生息し、細胞膜に存在する輸送体を介して様々な物質をやりとりすることで、私たちの健康に影響を与えています。例えば、私たちはシュウ酸を日々の食事から摂取しますが、その過剰蓄積は尿路結石症形成につながります。一方、シュウ酸を炭素源として生育する腸内シュウ酸分解菌が、私たちの体内シュウ酸恒常性維持に寄与しています。私たちは、同菌の輸送体タンパク質の構造生物学研究を進めることで、この菌が腸内の多様な栄養素からシュウ酸のみを厳密に認識して吸収し、代謝産物を効率よく腸内に排出するメカニズムを調べています。

 
研究内容に関する総説・解説記事などPublication_J.html