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大阪大学蛋白質研究所 蛋白質化学研究部門

最新研究成果:細胞移植に適した新しいヒトiPS細胞の樹立・維持培養法の開発
概要

 大阪大学蛋白質研究所の研究チームは、京都大学iPS細胞研究所の中川誠人講師らと協力して、細胞移植治療に適した安全かつ高効率のヒトiPS細胞の樹立・維持培養法を確立しました。この研究成果は、英科学雑誌「Scientific Reports」のオンライン版に18日づけで掲載されました。

論文タイトル:A novel efficient feeder-free culture system for the derivation of human induced pluripotent stem cells.

著者:Masato Nakagawa, Yukimasa Taniguchi, Sho Senda, Nanako Takizawa, Tomoko Ichisaka, Kanao Asano, Asuka Morizane, Daisuke Doi, Jun Takahashi, Masatoshi Nishizawa, Yoshinori Yoshida, Taro Toyoda, Kenji Osafune, Kiyotoshi Sekiguchi, Shinya Yamanaka
(網掛け:大阪大学蛋白質研究所チーム)

ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)を利用した再生医療を実現するためには、これらの細胞を安全かつ安定的に培養・維持する培養技術の確立が必要です。しかし、広く使われているヒト多能性幹細胞の標準的培養法は、マウス線維芽細胞をフィーダー細胞として使う方法であり、この培養方法には安全性に問題があることが指摘されています。これはマウス由来の細胞と共培養することにより、ヒト細胞がマウス細胞由来の表面抗原を持つようになることが知られているからです。また、高品質のフィーダー細胞を大量かつ安定に確保することも容易ではありません。そのため、フィーダー細胞を使わずに、ヒト多能性幹細胞を安全かつ安定的に培養する新たな培養方法の開発が求められてきました。

大阪大学と京都大学の共同研究チームは、大阪大学蛋白質研究所の関口清俊教授のグループが開発したラミニン511と呼ばれる蛋白質の活性フラグメントを基材に用い、味の素株式会社が開発した動物由来の成分を含まない完全合成培地を使うことにより、フィーダー細胞を使うことなくヒトiPS細胞を樹立し、安全かつ高効率に拡大培養する方法を開発しました。この方法を用いることにより、従来、熟練者の目と経験が必要であったヒト多能性幹細胞の培養を容易に行うことができるだけでなく、培養した細胞を医療応用することが可能です。実際、この方法で長期間培養しても染色体の異常は認められませんでした。また、この方法で樹立・培養した細胞を免疫不全マウスに移植すると、様々な細胞を含む奇形腫が発生し、細胞が三胚葉すべてに分化する能力を保持していることが確認されました。培養条件を変更すると、ドーパミン産生神経細胞やインスリン産生細胞、血球細胞等に分化誘導することも可能です。

今回新たに開発した方法は、 “フィーダー細胞を使わない”、“異種動物成分が混入しない”という医療用ヒト多能性幹細胞の培養法に求められてきた2つの基準を満たしているだけでなく、操作性・再現性にも優れており、GMPGood Manufacturing Practice)に準拠したヒトiPS細胞の製造方法として有効です。また、疾患モデル細胞の作製を通じた創薬や毒性試験への応用も期待されます。

(左)ラミニン511とその活性フラグメントの模式図。(右)ラミニン511活性フラグメントを用いて樹立されたヒトiPS細胞。従来の皮膚線維芽細胞(fibroblast)だけでなく、血球細胞(T cellNon-T cell)や臍帯血(Cord blood)からもiPS細胞の樹立が可能。




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