Art. Nature, (2002), 2, 31-40.

タウリン1000 mgの効果



前田正洋 大阪大学・蛋白質研究所・蛋白質溶液学部門


【序】
滋養強壮剤には、タウリンの含有量が1000 mg以上添加されていることが多い。しかしながらタウリンという名前と含有量だけが先行して、その効用をメーカー側が公示している例は少ない。さらに、タウリンの含有量表示は1.0 gと記載すべきところを1000 mgと誇張気味に記載するためには、効用の検証をすることが重要である。本研究では大腸菌による実験モデル系を用いて、タウリン1000 mgの効果を実証した。


【タウリン】
2-アミノエタンスルホン酸。遊離状態で種々の動物、植物組織中に見い出され、正常な尿中排泄物である。ヒトではその量は1日約200 mgである。(生化学辞典抜粋)
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図1:タウリンの説明図。(A); 純粋試薬、(B; 1000 mgのタウリン、(C); 化学構造

【方法】
大腸菌がかろうじて増殖可能な、必須物質のみから構成される最少培地(M9培地)を用いて、
大腸菌の増殖におけるタウリン含量の依存性を測定した。

実験条件:
大腸菌 TG1株
温度37 ℃
振盪培養器にて一晩培養
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図2:大腸菌培養の様子

培地組成(培地100 ml分):
Na2HPO4・12H20:150 mg
KH2PO4:300 mg
NaCl:50 mg
NH4Cl:100 mg
MgSO4:24 mg
グルコース:1000m g
オートクレーブ後、グルコースのみフィルター処理して混合
上記の培地にタウリンを濃度別に各々混合し、全ての培地はNaOHを用いてpH 7.3に揃えた。

菌体計測:
Luria-Bertani (LB)培地で一晩培養して定常期に達した大腸菌株1 mlを50 mlの測定用培地に植菌した。植菌後の培地の600 nmにおける吸光度から、菌体の増殖度を計測した。

【結果】
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図3:大腸菌増殖の経時変化とタウリン依存性

菌体の増殖速度には顕著な差が見られなかったが、最終的な菌体数が1000 mgタウリン中においては低かった。


より貧弱な培地(グルコース200 m g/100 ml, 最少培地による前培養、ミリQ水による培地調整) における植菌後22 時間後の吸光度を計測した。
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図4:貧栄養下における大腸菌増殖定常期のタウリン依存性。(A); フラスコ培養, (B); 試験管培養

以上から、培養条件に依存することなく高濃度のタウリンが大腸菌の増殖を妨げることがわかった。LB培地においても1000 mg/100ml以上のタウリンが大腸菌の増殖を妨げた (data not shown) 。


【考察】
本研究の結果から、タウリンは高濃度下において大腸菌の増殖を抑制する効果があることがわかった。このことから滋養強壮剤は適度に摂取することが重要であり、過剰摂取はむしろ健康を害するおそれもあることが示唆された。しかしながら本研究はもっとも原始的な生物である大腸菌を用いた系であり、ヒトに適用できるかどうかは慎重に検討する必要がある。

【謝辞】
本研究の実験に関して、蛋白質溶液学・酵素反応学両部門の試薬および機器の提供とメンバーの御理解に感謝します。安定同位体標識用培地に栄養ドリンクを入れるという話を聞いたので、うまくいったら使えるぞとニヤニヤしながら実験しましたが、全く大腸菌の増殖を促進しませんでした。一応、生体内における重要な物質で、元気がでるものみたいなのですが。タウリン3000 mgくらいが100 ml(一般的なビタミン剤容量)の水に溶ける限度です。

【参考文献】 Roger Y. Stanier et al., (1986), The Microbial World (fifth edition), Prentice-Hall, Inc.


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