Art. Nature, (2002), 1, 11-16.
天秤を利用した1分子質量測定の検討
前田正洋 大阪大学・蛋白質研究所・蛋白質溶液学部門
【序】
近年、蛋白質科学の分野では1分子測定が隆盛を極め、1分子の微細な挙動さえ観測できるようになった1。これまで蛋白質の分子量測定は、SDS-PAGE、超遠心、Massなどが主流であった2。しかしながら、これらは分子種全体の平均分子量が求められているにすぎない。本研究では簡便かつ相対的な質量が測定可能な天秤を用いて、1分子質量測定の可否および実用性を検討した。
【方法および結果】
図1. 通常の天秤

図2. 高感度天秤
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図3. 超高感度天秤
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平均的な蛋白質の分子量を10000とすると
1分子あたりの蛋白質の質量は、分子量をアボガドロ数で割って
10000/(6.02*1023) g = 1.67*10-20 g
この場合、通常使用する1 g で1 cm振れる程度の天秤では、
1.67*10-20 cmしか振れず、人の目で検知することができない。
そこで、天秤の針を長くすることで振れ幅を大きく拡大した(図1 - 3)。
天秤の有効性を理論的に考慮すると
分子量10000の分子で天秤の針が1cm振れるためには、天秤の針の長さを
1/1.67*10-20 = 6.0*1019
すなわち、6.0*1019倍にすることが必要である
通常使用している天秤の針の長さを10 cmとすると、
1分子の質量が計測できる針の長さは、6.0*1016 kmとなる。
したがって上図のような天秤では測定は不可能であり、
1分子の質量が計測できる針の長さをもった天秤を作るためには、
5.7*1016 km 以上( 6000 光年)離れた
さそり座のアンタレス(赤い恒星)
はくちょう座 X-1(ブラックホール)
のような遥か遠方まで検知針を伸長させる必要がある。
この距離と比較して、以下のような天体では距離が足りない。
太陽:1.5*108 km
冥王星:5.7*109 km
ケンタウロス座のα星:4.2*1013 km (太陽の次に近い恒星)
【考察】
蛋白質1分子の質量が検知できる天秤は、地球上にも、太陽系にも、存在できないことがわかった。この打開策として、電子顕微鏡で視野を拡大する方法が有効であると考えられるが、現段階では視野を拡大できても106 倍程度である。しかも1分子を皿にのせる方法は確立されていない。本研究は1分子測定の精密さと困難さを実感できる好例である。
【謝辞】
本研究の計算式の構築に関して、同部門の櫻井一正氏の助力をいただいたことに感謝します。
【参考文献】
1. Ishii, Y. and Yanagida, T. Single Molecule Detection in Life Science. Single Mol., (2000), 1, 5-16.
2. Jakoby, W. B. (Ed.), Enzyme Purification and Related Techniques, Part C, Methods Enzymol., (1984),104.
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