| これだけは知っておきたいDNAのメチル化 |
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| 真核生物ゲノムDNAのメチル化修飾は遺伝情報の発現を抑制する機構として進化を遂げてきた。発生・分化の過程で遺伝情報の発現はゲノムDNAの塩基配列だけでなく、エピジェネティックな要因によっても制御されている。ゲノムDNAのメチル化はエピジェネティック要因の一つであるが、その状態は塩基配列を新たにメチル化して模様を描く、細胞が増殖する過程で維持する、必要に応じて消去するという過程の総和として決定される。特にDNAのメチル化修飾に関わるDNAメチルトランスフェラーゼとその相同分子としてこれまで5つの遺伝子が報告されている。しかし、ゲノムのどの領域がどのように認識されてメチル化されるのかについてはこれから解決されるべき問題が多く残されている。 |
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| はじめに |
DNAのメチル化修飾は、遺伝子の実体である塩基配列を変えることなく、すなわち、遺伝子のコードするアミノ酸配列情報を変えることなくその発現を制御する。また、いったん付けられたゲノム上のメチル化模様は安定に次世代の細胞に受け継がれる。一方でメチル化修飾は必要に応じてはずされる可逆性ももっている。遺伝情報の発現制御機構を理解するうえで、ゲノムDNAのメチル化がどのように調節されているのかを理解することは重要である。 |
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| DNAのメチル化修飾 |
真核生物では一部の生物の例外を除いてゲノムDNAのシトシン塩基(C)の5位がメチル化修飾をうける(図)。動物では脊椎動物に進化を遂げたときゲノムの塩基量が増加したのと時を同じくしてゲノム中のシトシンメチル化修飾の程度が増えた。脊椎動物のゲノムDNAのメチル化はシトシン塩基の次にグアニン塩基が続くCpG配列中のシトシン塩基に付加される。マウスのゲノムDNAではCpG配列の約80%がメチル化修飾を受けている。このメチル基はS-アデノシル-L-メチオニンからDNAメチルトランスフェラーゼの働きで転移される。 |
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図 シトシン塩基のメチル化修飾。真核生物のゲノムDNAは、シトシン塩基の5位の炭素はDNAメチルトランスフェラーゼの働きでメチル化修飾を受ける。脊椎動物ではメチル化修飾の標的塩基配列はCpGとなっている。
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遺伝子がメチル化されると転写が抑制される
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| マウスのゲノムを俯瞰してみると、G+C含量が相対的に高い領域が島状に散在しこれをCpGアイランドと呼ぶが、多くの場合、ハウスキーピング遺伝子のプロモーターとなっていて低メチル化状態にある。一般に、転写されている遺伝子のプロモーター領域は低メチル化状態にあり、不活性な遺伝子は高度にメチル化されている。プロモーター領域に存在する転写因子の結合モチーフがメチル化されると、Sp1など一部の転写因子を除いてほとんどの転写因子はDNAに結合できなくなる。また、メチル化されたDNAを特異的に認識して結合する蛋白質が存在し、このメチル化DNA結合蛋白質とヒストン修飾を介して転写が阻害される。DNAメチル化は長期的に遺伝子をサイレンシングするための一種の記憶として機能している。 |
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ゲノムにメチル化模様を書き込む
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| 脊椎動物では細胞が分化する過程で様々な遺伝子領域のメチル化状態はダイナミックに変化するとされる。哺乳類ではゲノム全体でメチル化模様が大きく書き換えられる時期が生涯で2回ある。生殖細胞が成熟する過程と、受精して胚が発生する初期である(図)。 |
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図.ゲノムワイドなメチル化。哺乳類ではゲノム全体のメチル化が大きく書き換えられる時期は個体の生涯で2回ある。それは受精卵が着床する時期(マウスでは5.5日胚)と生殖細胞の分化の過程(マウス雄性生殖細胞では16-18日胚、雌性生殖細胞では出生から生後10日頃)である。(縦軸はゲノムDNAのメチル化の程度を示す。)
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生殖細胞ではいったんすべてのメチル化模様が消去され、新たな模様が書き込まれる。しかし、ゲノム全体でメチル化模様が大きく変化するのはどうやら哺乳類に特徴的な現象で、植物では生殖細胞を経て次世代にもDNAのメチル化模様は伝わり、まさに“遺伝”する。5-アザシチジンなどの薬剤やDNAメチル化を触媒する酵素を変化させて遺伝子のメチル化模様を変化させたとき、そのDNAメチル化状態とそれにより誘起される形質、例えば背丈が小さくなる等、が次世代に伝わるのである。
哺乳類ではDNAをメチル化するDNAメチルトランスフェラーゼとその仲間として5つの遺伝子産物が報告されている(図)。その中でゲノムに新たなメチル化模様を書き込む酵素はDnmt3aとDnmt3bであることがわかっている。両酵素の標的メチル化配列は主にCpGで、それ以上に長い塩基配列を認識してメチル化することはない。したがって、メチル化されるべき領域と配列を認識する何らかの仕組みがあるはずであるが、クロマチンの構成成分と高次構造の違いを認識しているのではないかと考えられている。
哺乳類の生殖細胞ではある種の遺伝子は性特異的なメチル化模様が書き込まれる。このように性特異的にメチル化され、これにより発現が抑制される遺伝子はインプリント遺伝子と呼ばれる。これらの遺伝子のメチル化にはDnmt3Lという、Dnmt3aやDnmt3bとよく似てはいるが自身はDNAメチル化活性をもっていない因子が必要である。
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図.DNAメチルトランスフェラーゼとその仲間。DNAメチルトランスフェラーゼの相同遺伝子として、Dnmt1、Dnmt2、Dnmt3a、Dnmt3b、Dnmt3Lが報告されている。そのコードするタンパク質の構造を模式的に示す。模式図の上に構造モチーフを、横棒で機能領域を示す。 |
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| DNAメチル化模様形成とDnmt3aとDnmt3bの使い分け |
精製したDnmt3aとDnmt3bの反応速度パラメーターは非常によく似ていて、Dnmt3a遺伝子の胚発生過程における相補性は不完全である5。この不完全な相補性の原因のひとつは、Dnmt3aとDnmt3bが発現する時期と細胞が胚発生過程で異なるためであると考えられる。おそらく着床時にゲノム全体に起きるメチル化にはDnmt3bが大きく寄与していると推定される(図)。Dnmt3aとDnmt3bによる領域特異的なメチル化には標的配列にガイドする機構や相互作用因子が存在することが考えられるが、この点については現在盛んに研究されているが、よくわかっていない。 |
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図.胚発生とDNAメチルトランスフェラーゼ。マウス胚発生過程におけるDnmt1、Dnmt3a、Dnmt3bタンパク質の発現の推移とゲノムDNAのメチル化量を模式的にあらわす。着床時の胚体にはDnmt3bが、そして10日胚以降の間葉系の細胞ではユビキタスにDnmt3aが発現する。 |
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| DNAメチル化模様はどのように次世代の細胞に伝えられるか |
一旦描かれたDNAのメチル化模様は細胞が増殖分裂するとき、すなわちDNAが複製されるとき、娘細胞のゲノムに伝えられる。この反応はDNAメチルトランスフェラーゼのひとつであるDnmt1が触媒する。Dnmt1はDNAの複製フォーク付近にPCNA(proliferating
cell nuclear antigen、増殖細胞核抗原)とともにいて、新たに形成されたDNAにメチル基を付加する。複製は親のDNA片鎖に相補する塩基を忠実につなぎ、半保存的に新しい二重鎖DNAを2本作る過程である。メチル化されたDNAが合成された直後は、親鎖側にはメチル化修飾が残されているが新たに合成された鎖にはメチル基は入っていない。この状態をヘミ(半分)メチル化状態と呼び、Dnmt1はこの状態を好んでメチル化する性質を持っている。その結果、DNA上のメチル化模様は娘細胞に伝えられることになる(図)。 |
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| 図.ゲノムDNAのメチル化調節。ゲノムDNAのメチル化状態は、メチル化されていない配列をメチル化して模様を創出し(de
novoメチル化活性)、細胞が増殖する過程で維持し(維持メチル化活性)、必要に応じて消去する(脱メチル化活性)過程の総和として決定されている。 |
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| Dnmt1と細胞周期 |
Dnmt1のmRNAと翻訳されたDnmt1はS期以外、特に、G1期・G0期では不安定になることにより、その翻訳産物の発現は細胞周期に依存した発現を示す。Dnmt1は細胞周期を制御する因子であるRBと直接的に相互作用し、また、PCNAとの結合はサイクリン依存性キナーゼインヒビターであるp21と競合する。さらに、培養条件下の線維芽細胞からDnmt1遺伝子を欠失させると、細胞はアポトーシスを起こしてしまう。アフリカツメガエル初期胚でDnmt1の働きを阻害すると細胞分裂が停止することや、培養細胞でDnmt1の発現を阻害するとやはり細胞増殖が停止する。これらの実験事実は、Dnmt1の発現が細胞周期の調節下にあるだけでなく、Dnmt1自身が積極的に細胞周期の制御にかかわっていることを示している。 |
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| Dnmt2存在の謎 |
Dnmt2遺伝子は分裂酵母にもホモログpmt1があり、進化的に保存されている。立体構造も細菌のDNAメチルトランスフェラーゼとよく似ているが、DNAメチル化活性は非常に弱い。ヒトのDNMT2はCpGを、ショウジョウバエの胚で特異的に発現するDnmt2様タンパク質はCpA配列とCpT配列をメチル化する弱い活性をもつ。しかし、分裂酵母、ショウジョウバエやマウスでこの遺伝子をノックアウトしても何の形質変化も示さず、生理的な機能についてはまったくわかっていない。奇妙なことに、PMT1ではDNAメチルトランスフェラーゼの活性中心に共通して存在するPro-Cysの間にSer残基がはいり、Pro-Ser-Cysとなっているが、この間のSer残基を削除することでCC(A/T)GG配列をメチル化する活性が現れる。分裂酵母からヒトに至るまで遺伝子が存在しているということは、何か生理的な役割を担っているはずである。機能の解明は残された問題である。 |
DNAメチルトランスフェラーゼの各種アイソフォーム |
マウスDnmt1には卵母細胞特異的なプロモーターと第1エキソンから転写されるアイソフォームが存在する。この転写産物はN末端118アミノ酸残基短いDnmt1oとよばれるタンパク質をコードしている。Dnmt1は通常核に局在するが、奇妙なことにDnmt1oは卵母細胞と受精後2-4細胞期には細胞質に局在し、8細胞期に一時的に核に移行し、16細胞期以降は再び細胞質に局在するようになる。発現したDnmt1oは胚盤胞まで発現が認められる。しかし、Dnmt1oにN末端が欠けていることが細胞質局在化に寄与しているわけではなさそうである。マウス精細胞ではDnmt1は減数分裂の始まる時期にやはり特異的なプロモーターと第1エキソンから読まれる転写産物に切り替わる。この転写産物は、しかし、タンパク質に翻訳されることは無く、これにより減数分裂期にDnmt1は急激に低下する。
マウスDnmt3aにも異なるプロモーターにより転写され、N末端が319アミノ酸残基短いDnmt3a2と呼ばれるアイソフォームが存在する。Dnmt3bには選択的なスプライシングによりPWWP領域とPHDモチーフの間20アミノ酸残基と触媒領域の一部を欠くものが存在して、この組み合わせにより6種類のアイソフォームが報告されている(Dnmt3b1〜6)。いずれもその生理的な役割についてはわかっていない。 |
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| DNAメチル化模様の消去 |
一旦書かれたメチル化模様が消去される機構については様々な可能性が提唱されているが、生体内で実際にどの機構が働いているのかはわかっていない。消極的に特定の場所をメチル化させない機構と積極的にシトシン塩基に結合したメチル基を除去する二つの機構が考えられる。例えばDNA複製過程でDnmt1が働かないようにすれば、体細胞で2回分裂を繰り返すことで半分の細胞では完全に脱メチル化する計算になる(上図参照)。もう一つの脱メチル化機構は複製を介さない、いわば積極的な脱メチル化機構で、その存在を示す報告は数多いもののその実態は明確ではない。メチル化されたシトシン塩基の切り出しと修復によって脱メチル化されるとする報告、シトシン塩基に結合したメチル基を酵素が直接切り出すとする報告がある。前者はメチル化したシトシン塩基を切り出すグリコシラーゼという酵素が、そして後者ではメチル化DNA結合蛋白質の一つMBD2が中心的な役割を果たしているというが、いずれも他の研究グループから追試報告がない。脱メチル化反応はDNAメチル化研究にとっては非常に重要な課題であり、解明が待たれる。 |
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| DNAメチル化とヒストン修飾 |
メチル化されたDNAを特異的に認識して結合するタンパク質の多くはヒストン脱アセチル化酵素を含む転写抑制複合体の一員か、あるいはこれら複合体と結合して、最終的にはヒストンを脱アセチル化、メチル化することにより転写を抑制する。DNAのメチル化、ヒストンの脱アセチル化、ヒストンのヘテロクロマチン化により長期的な遺伝子のサイレンシング記憶が形成されるが、DNAのメチル化が引き金となってヘテロクロマチン化へと一方向的に進行するわけではない。DNAメチルトランスフェラーゼがヒストン脱アセチル化酵素と直接相互作用するし、DNAメチル化トランスフェラーゼとヒストンH3のメチル化がお互いに影響しあう事実も報告されている。DNAメチル化とヒストン修飾には密接な関係が存在することは確かであるが、お互いの間の相互作用に関わる分子機構についてはわからないことがまだまだ多く、解決されるべき重要課題である。 |
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