【研究課題】
1. ゲノムDNAのメチル化調節機構
2. DNAメチルトランスフェラーゼの構造と機能
3. メチル化DNA結合蛋白質の機能と相互作用因子
【研究活動の概略と主な成果】

染色体DNAのメチル化模様がどのようにして形成され、維持されているのかを明らかにすることが我々の研究の最終目標であるが、これまで以下の研究成果を得た。

1. ゲノムDNAのメチル化模様の維持とDnmt1:
Dnmt1は複製の過程で親鎖のメチル化模様を娘鎖に保持する機能を担うことが知られている。従って、細胞増殖に依存した発現を示すことが培養細胞で示されているが、この増殖に依存したDnmt1の発現は生体内でも同様であることを、腸の上皮細胞と精巣細胞で示した。増殖している細胞ではDnmt1はPCNAとともに複製フォークに存在してメチル化模様の維持に寄与しているが、実際PCNAとの相互作用がこの機能に貢献していることを示すことが出来た。ただ、Dnmt1はPCNAと相互作用することなく、本来の性質としてDNA上をスライドしてシトシンを順番にメチル化する性質をもっていることを明らかにした。一方でDnmt1は細胞にとり、DNAのメチル化以外にも重要な機能をもつことを示す結果を得ることができた。

 メチル化模様を維持するDnmt1の最大の特徴は片一方の鎖がメチル化されたDNAを特異的に認識してメチル化する点である。これは他のDNAメチルトランスフェラーゼと比べてもきわめてユニークな性質である。この点を明らかにするべく酵素化学的な手法を用いてきたが、これはそろそろ限界であると感じている。Dnmt1の立体構造解析を通じてはじめて決定的な機構の解明ができると考える。このために現在、組換Dnmt1を精製して結晶化を試みているところである。

2. ゲノムDNAのメチル化模様形成:
 マウスではゲノムDNAのメチル化模様は着床直後の胚体と生殖細胞で大きく書きかえられることが知られている。この新たなメチル化模様の形成にはDnmt3aとDnmt3bと呼ばれるDNAメチルトランスフェラーゼが寄与していることが遺伝学的に示されている。我々はDnmt3aとDnmt3bの組換体を精製して、両酵素が新たにメチル化模様を書き込む能力があることを示した。また、両蛋白質の発現時期を特異的な抗体で調べたところ、着床直後の胚ではDnmt3bのアイソフォームの一つであるDnmt3b1が、そして雄性生殖細胞ではゲノムワイドなメチル化が起きる時期にはDnmt3aのアイソフォームであるDnmt3a2が特異的に発現していることを明らかにした。これにより、着床胚の胚体ではDnmt3b1が、雄性生殖細胞ではDnmt3a2がメチル化模様書きこみの責任分子であることを示すことができた。生殖細胞におけるDNAメチル化模様の形成にはメチル化活性をもたないDnmt3Lが補助因子として必須であることが遺伝学的に示されているが、この分子基盤を明らかにする目的で組換Dnmt3LによるDnmt3aとDnmt3b活性への影響を解析したところ、その活性をDNAの塩基配列に依存しないで促進することを明らかにした。責任配列はDnmt3LのC末端半分に存在することを合わせて示した。このことによりDnmt3Lの機能がDnmt3aないしDnmt3bの活性促進にあることを明らかにできた。

 ヌクレオソームDNAに対するDNAメチル化酵素Dnmt3aとDnmt3bの活性を比較したところ、ともにヌクレオソーム形成によりDNAメチル化活性は著しく低下した。しかし、Dnmt3aがヌクレオソーム・コア領域に位置するDNAをほとんどメチル化できなかったのに対して、Dnmt3bは有意にメチル化することができた。一方、Dnmt3aは裸のリンカーDNA部分に対して特に高い活性を示した。これらの性質の違いが、両酵素の生体内で異なるゲノム領域をメチル化することの分子基盤の一つであることを提案した。今後は、構成ヒストンの各種修飾によりDNAメチルトランスフェラーゼ活性がどのように変化するのかを解析することが重要であると考える。

3. メチル化DNA結合蛋白質の解析:
 メチル化DNA結合蛋白質のうちMeCP2、MBD2、MBD3は転写抑制因子として機能していることが知られている。なかでもMBD3遺伝子をターゲティングしたマウスは胎生致死で、それ以上の解析はできなかった。我々はアフリカツメガエルのMeCP2、MBD2、MBD3ホモログのcDNAを単離して、胚発生期における発現プロファイルをしらべ、MBD3が初期胚で主要なメチル化DNA結合蛋白質であり、眼や中枢神経に高発現していることを示した。さらに、その発現をアンチセンス鎖で障害することにより眼、脳の発生が傷害されることを明らかにした。様々なMBD3のコンストラクトを発現させた実験から、MBD3がメチル化DNAに結合することがMBD3の機能発現にとって必要であることを明らかにした。

 無脊椎動物としてメチル化DNAの存在が判っている昆虫のカイコのcDNAライブラリーからメチル化DNA結合タンパク質のcDNAクローンを見つけた。このタンパク質の発現も昆虫の脳に相当する神経節で見られ、神経組織にはメチル化DNA結合タンパク質と結合するタンパク質が複数存在すること、メチル化DNA結合タンパク質はリン酸化を受けるタンパク質であることなどほ乳類と類似の特徴が見られた。
 メチル化DNA結合蛋白質は多くの場合巨大超分子複合体の一員として存在すると考えられる。興味深いことに、この巨大な超分子複合体は組織や分化の局面で構成員がダイナミックに変化していると推察される。今後はMBD3の含まれる超分子複合体を中心にして、その構成因子を同定していくことが重要である。

【課題と展望】
メチル化模様を維持するDnmt1の最大の特徴は片一方の鎖がメチル化されたDNAを特異的に認識してメチル化する点である。これは他のDNAメチルトランスフェラーゼと比べてもきわめてユニークな性質である。この点を明らかにするべく酵素化学的な手法を用いてきたが、これはそろそろ限界であると感じている。Dnmt1の立体構造解析を通じてはじめて決定的な機構の解明ができると考える。このために現在、組換Dnmt1を精製して結晶化を試みている。

新たにメチル化模様を書きこむ機構の解明については、これまでメチル化受容基質として精製したDNAを用いた解析が、我々や他の研究者により進められてきた。しかし、生体内でDNAはコアヒストンに巻きついたヌクレオソームを基本単位として存在する。従って、DNAメチル化の解析は今後ヌクレオソームを基質として行う必要があると考える。今年度までに再構成ヌクレオソームに対するDnmt3aとDnmt3bの性質の違いを見出すことができた。今後は、構成ヒストンの各種修飾によりDNAメチルトランスフェラーゼ活性がどのように変化するのかを解析する計画である。

DNAメチル化酵素は様々な因子と相互作用することにより、特定のゲノム領域をメチル化していると考えられる。今後は各DNAメチル化酵素がどのような因子と結合して核内に存在しているのかを同定していく計画である。