RDV の構造学的研究

 ウイルスの構造解析は一般的に殻蛋白質(コートプロテイン:coat protein)が多い。その理由として精製ウイルス結晶化するに際して、一種類のコートプロテインが対称性を持って非常にリジッドに結合しあっている事に加え、対称的な球状構造から結晶化し易いという特徴が挙げられる。実際に植物ウイルスでよく見られる現象として、感染葉の液胞内などで、無数の球状ウイルス粒子が集まりあって『結晶配列』と呼ばれる、整然と粒子が並ぶ状態をウイルス自らが生じさせることがある。in vivoに於いてもウイルスは「物質的に」結晶化し易いという天然の構造を持っていると言う事ができる。つまり、人為的に結晶化し易いのが球状ウイルスの特徴である。しかしながら、動物ウイルスの多くは、エンベロープと呼ばれる脂質膜に包まれているために、物質的に結晶化しにくいので全ての球状ウイルス粒子に当てはまるとは言う事はできない。しかしながら、動物ウイルスでもこのエンベロープを取り除く事によってむき出しの蛋白質状態にすれば、多くの植物ウイルスと同様にその物質状態は親水となるので、結晶化されている例が多い。ヒトライノウイルス 1) やノダウイルス 2) はエンベロープを除いた状態で結晶化に成功し丸ごと粒子構造の解析に成功している。その蛋白質サブユニットは植物ウイルスの粒子とほぼ同じ対称性を持った粒子構造を構築する。
 イネ萎縮病ウイルス[Rice Dwarf Virus :RDV]はReoviridae family、genus- Phytoreovirusに属し、ツマグロヨコバイ(図1)を媒介にしてイネ科植物に感染し萎縮症状を引き起こす図2)。粒子分子量 が約70,000KDa、直径約700Åで2重殻構造を持つ二本鎖RNAウイルスである図3)。
図1  半翅目に属するツマグロヨコバイはイネの害虫として有名である。鋭い口吻によりイネ茎を貫き汁を直接吸う以外に、本研究RDVを原因とするイネ萎縮病、わいか病、ファイトプラズマを媒介する。

図2 左: 感染後 中 : 感染前 右 : RDV-

図3  RDV粒子 透過型電子顕微鏡写真  白線100 nm

イネ萎縮病ウイルスの結晶構造研究は、つくば独法中央農業総合研究センターでRDV粒子の結晶が得られた3) のを皮切りに開始された。構造解析については、ab initio法による初期位相の決定 4)、またこの位 相と低温電子顕微鏡の低分解能の位相の2種類の位相を用いた電子密度平均化法による位 相拡張法などの結晶構造学的研究が大阪大学蛋白質研究所で始められ、2003年に構造決定され、約3.5Åの分解能の電子密度モデルが得られた 5)

 ※結晶写真をクリックすると反射回折像が観れます

初期位相による全体粒子の電子密度マップ

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しかし、このRDV粒子モデルは対称性を持つ殻蛋白質(コートプロテイン:coat protein)であるP3、P8サブユニットで構成されており、粒子の内部に存在する転写 コアの構造は得られていない。これは転写系因子がコート蛋白質に見られるような対称性を欠いているか、また動的な構造ゆえの原因が考えられる。 一般に球状ウイルスの構造はリジッドなコートプロテインが正ニ十面対称を形成しており、結晶化すると粒子それ自体の規則的な配位 が見られる。リジッドなコートプロテインに結合している転写系因子蛋白質においては、それが等価である場合は当然、正二十面 体対称構造に基づいて対称位置に配位しているはずであり、結晶構造の電子密度は見えてもよいはずである。本RDVでは5回転軸の殻構造の内側に転写 系蛋白質群 (transcription complex)が存在していることが明かとなった。

 

参考文献

1) Zhang, Y., Simpson, A.A., Ledford, R.M., Bator, C.M., Chakravarty, S., Skochko, G.A., Demenczuk, T.M., Watanyar, A., Pevear, D.C., Rossmann, M.G. Structural and virological studies of the stages of virus replication that are affected by antirhinovirus compounds. J Virol. 78,11061-9 (2004). [PDB:1ND2]

2) Wery, J.P., Reddy, V.S., Hosur, M.V., Johnson, J.E. The refined three-dimensional structure of an insect virus at 2.8 A resolution. J Mol Biol. 235, 565-86 (1994). [PDB:2BBV]

3) Mizuno, H., Kano, H., Omura, T., Koizumi, M., Kondoh, M., Tsukihara, T. Crystallization and preliminary X-ray study of a double-shelled spherical virus, rice dwarf virus. J Mol Biol. 219, 665-9 (1991).

4) Naitow, H., Morimoto, Y., Mizuno, H., Kano, H., Omura, T., Koizumi, M and Tsukihara, T. A low-resolution structure of rice dwarf virus determined by ab initio phasing. Acta Cryst. D55, 77-84 (1999).

5) Nakagawa, A., Miyazaki, N., Taka, J., Naitow, H., Ogawa, A., Fujimoto, Z., Mizuno, H., Higashi, T., Watanabe, Y., Omura, T., Cheng, R. H., Tsukihara, T. The atomic structure of rice dwarf virus reveals the self-assembly mechanism of component proteins. Structure. 11, 1227-38 (2003). [PDB:1UF2]

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