主任教授から研究室紹介

次のような研究をつうじて、この研究室に来る人は学んで成長していってもらいたいと思います。

構造生物学が研究分野です。この研究では生体分子構造に基づいて機能を解明します。例えば、GPCRと言われる蛋白質は、分子や光などの信号を選別して細胞内に伝えられる仕組みを分子が持っています。多くの薬のターゲットになるなど 医学上も重要です。また、H+-ATP合成酵素は、モータのように回転しながら、電気化学エネルギーであるH+濃度勾配をATPという化学エネルギーに変換します。いずれも生体が生きていく上では極めて重要で、その作動原理がわかると利用できます。 つまり、立体構造と機能の関連が明らかになると、その成果を利用して、より機能の強い薬分子やエネルギー変換など機能を向上させた蛋白質を設計できるようになります。

主に用いているのは大きな超伝導磁石を使う核磁気共鳴法(NMR)という方法で、核スピンに反映する分子の構造や機能を観測します。NMRは、光のスペクトルを観測する分光法の中でも蛋白質の全立体構造を決められるほど多くの情報をもたらします。その特徴は、細胞の膜にある状態、溶液状態など実際に生体分子が機能する条件で構造機能解析できまることです。これが、結晶構造得解析とは違う長所です。以上のような研究内容が、長い研究室名、蛋白質構造生物学部門 機能構造計測学研究室の由来です。

新しい研究成果は、生物学、化学、物理学の最先端の方法を組み合わせて得られます。対象は生命機能に関する蛋白質など分子の複合体の構造と機能です。生体分子の試料を作ったり、改変して機能を調べるのためには生物学の技術を用います。 原子分解能で分子立体構造やその変化を調べるので、物理化学も基礎になります。 分子構造や運動は理論的に計算したり、注目する性質をデータベースから見つけ出すためにコンピュータを用いた方法も必須です。また、計測に使う装置は、毎年進歩していくエレクトロニクスや機械技術など物理工学に基づいています。実験から得られる情報は、試料だけでなく測定装置の感度や分解能に大きく依存しています。 例えば、細胞の存在や構造は、光学顕微鏡や電子顕微鏡が現れて初めて明らかになりました。そのように革新的な性能を持つ測定法や装置を作ることは、これまでわからなかった生体分子の機能構造を解明する上で極めて重要です。したがって、必要ならそのような方法を作ることにも力を注いでいます。 このように生物学・化学・物理学の境界領域で研究を進めているので、研究室 の英語名は、Molecular Biophysicsとしています。

研究を実施するプロジェクトでは、生物科学や物理学など異なる分野の新しい方法を組み合わせて、複数のグループが協力して研究を進めることが多くありません。例えば、研究室には、機能ある生体試料を調製する技術を持つ人、核磁気共鳴など高度な機器分析実験を行える人、得られた結果をバイオインフォマティクスや計算機化学などで解析できる人などがいます。各人は、それぞれ得意分野はあっても、情報は共有しどのような方法を研究に使えるかを理解していることが必要です。 さらに、必要な技術は研究室外にもあり、他大学や企業とも協力します。 また、研究協力では、自分たちの要求を明確に限定すると同時に、異分野の言葉・特徴を理解し、自分がインターフェースになることが大切です。それによって、 異分野を巻き込んで研究を主導し発展させられます。そのような意味で、私は研究作品のプロデューサーですし、加わる人も研究を通じて多くの分野や人を学び、自分の作品を作ってもらいたいと思います。

私たちの分野の研究では、広い基礎分野を学び、自分の頭できちんと考えることが大切です。研究テーマは困難でも重要性を優先して選ぶようにしていますが、 考えることでその重要性や意義を納得できます。また、周りの人たちが言っていることも、実はたいした根拠がないと気づくことができます。逆に、自分の過ちを認めてそこから学び、変化することもできます。自分でよく考えた研究はおもしろく、やりがいがあり、科学の進歩に貢献するでしょう。院生には基礎を広く勉強してそれを応用でき、社会でも通用する人になってもらいたいと考えています。 神は細部に宿るという言葉があります。実験結果として得られるスペクトルの小さな変化から、他の計算と合わせて考えると、生体分子複合体の構造や機能を読み取れることがあります。しばしば実験は、体で行うというより頭で行うことです。 その小さな違いに気づくためには、前もって仮説を立てたり、現象の背後を想像する必要があります。これには訓練を要しますが、新しい実験を進めるためには特に重要です。基礎だけではなく、よく習熟したコアとなる実験法や解析法を身につけることは、研究を進める上で大きな強みになります。

この研究室では次のようなことを学び身につけることができます。生体分子複合体の構造と機能の相関、蛋白質の発現精製法、機能ある生体分子再構成法、核磁気共鳴実験法など分子構造を解析する方法、バイオインフォマティクス・計算機化学、実験装置の製作法、英語論文作成法、研究発表法などです。