構造生物学って?

生命活動のほとんどの場面で重要な実働部隊となる蛋白質。光を視覚に変え、筋肉を動かし、必要なエネルギーを生産して運搬、また全長2メートルにもなる遺伝子DNAを直径10マイクロメートルほどの核に効率よく巻取り格納し、必要なときには取り出して複製したり修復したりします。魔法のようですが、もちろん魔法ではありません。物質(蛋白質)が物質(DNAや他の蛋白質)に働きかけてこれらの現象が起こる以上その仕事は、歯車が噛み合いまわって、隣の歯車に力を伝えると言った一般的な物理に則って行われているはずです。そこでこの精巧な分子機械の作動原理を、その立体構造や化学的、静電的な性質を原子の解像度で精密に知ることから解明しようとするのが構造生物学の立場です。例えば機械式のスイス時計が、なぜそんなに正確な時を刻めるか、理解したいと思ったら、あるいは壊れた時計を直したいと思ったら、中にある歯車の位置・大きさ・噛み合い方などを、すべてを正確に理解することが第一歩でしょう。考え方はこれと同じです。生命の運行原理に迫る深淵な学問であると同時に、疾病の機序解明、治療法の提案につながるなど、実利も大変大きい挑戦となります。

私たちは特に、次で紹介するように水に溶けない、結晶にもならない蛋白質たちに興味を持っています。水に溶けない蛋白質なんてあるの?それは膜蛋白質や凝集性蛋白質で、創薬標的として重要な分子系です。私たちはそれらを固体NMRという手法を使って解析しています。