細胞核動態情報研究室

メンバー

教授(分子発生学研究室と兼任) 古川貴久
招聘教授  永野 隆
秘書    吉田敬子

研究課題

1. 細胞核内におけるクロマチン・染色体のダイナミクスをより包括的かつ正確に捉える新技術の開発

2. 一細胞解析技術を用いたクロマチン・染色体の高次構造やその制御実態の解明

研究概要

我々の一個体を構成する多種多様の体細胞は、いずれも受精卵に由来するほぼ同一のゲノム情報を持ちます。しかしそこに各細胞種独自のエピゲノム情報(DNA やクロマチン蛋白質の化学修飾、細胞核内でのクロマチン高次(三次元)構造(簡単に言うとクロマチンの折り畳まれ方)など)が加わることで各細胞ごとにゲノムの働き方が変化し、特有の形質が安定して生み出される結果、我々の生命が成り立っています。私たちの研究室では、このように生命に不可欠なエピゲノム情報の中でもまだ分からないことの多いクロマチン高次構造について、その真の実態を明らかにするための研究を行なっています。

従来、クロマチン高次構造は顕微鏡で調べるのが一般的で、「氷山の一角」しか調べることができませんでしたが、同種の細胞でも1個ごとに異なる高次構造を持つことは知られていました。2009年になると次世代シークエンス技術を用いてクロマチン高次構造を網羅的に捉える手法(Hi-C)が開発され、全ゲノムスケールで高次構造上の特徴が分かるようになりました。しかしHi-Cでは数千万個の細胞を平均した高次構造は分かるものの、顕微鏡で見出されていた個々の細胞間の違いとの関係は分からないままでした。

このように、顕微鏡とHi-Cという相反する長所と短所を併せ持つ2つの手法で得られるクロマチン高次構造の知見を包括的に理解するため、私たちは一つ一つの細胞からHi-Cのデータを得ることのできる「1細胞Hi-C」を2013年に世界に先駆けて開発しました(下記論文1)。これにより、個々の細胞の持つクロマチン高次構造の違いを全ゲノムスケールで捉える道が開けました。更に私たちは1細胞Hi-Cのデータ品質や効率を改良し、数千個分の1細胞Hi-Cデータを収集し横断的に解析した結果、細胞周期がG1期・S期・G2期と進行するに伴ってクロマチン高次構造に従来のHi-Cでは捉えられなかった大規模で連続的な再構成が起きていることを見出しました(下記論文4)。

この結果は、「細胞集団の平均」として得られた既知のエピゲノムデータ中にも、クロマチン高次構造の絶え間ない動きに連動する未知の変化が隠れている可能性を示唆します。私たちはこの隠れたダイナミクスを調べるための新たな技術開発などを通じて、クロマチン高次構造の実態に更に迫るための研究を引き続き行なっています。

発表論文

1. Nagano T, Lubling Y, Stevens TJ, et al. Single-cell Hi-C reveals cell-to-cell variability in chromosome structure. Nature. 2013, 502: 59-64.
2. Nagano T, Várnai C, Schoenfelder S, et al. Comparison of Hi-C results using in-solution versus in-nucleus ligation. Genome Biol. 2015, 16: 175.
3. Nagano T, Lubling Y, Yaffe E, et al. Single-cell Hi-C for genome-wide detection of chromatin interactions that occur simultaneously in a single cell. Nat Protoc. 2015, 10: 1986-2003.
4. Nagano T, Lubling Y, Várnai C, et al. Cell-cycle dynamics of chromosomal organization at single-cell resolution. Nature. 2017, 547: 61-67.
5. Collombet S, Ranisavljevic N, Nagano T, et al. Parental-to-embryo switch of chromosome organization in early embryogenesis. Nature. 2020, 580: 142-146.

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