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主な研究内容

1、カルノシン(beta-alanyl-L-histidine)の分解、合成のメカニズムとその生理機能

2、概日リズムとエネルギー代謝調節における蛋白質リン酸化の解析

3、プロテオミクスによる蛋白質解析法の開発とその応用


1、カルノシン(beta-alanyl-L-histidine)の分解、合成のメカニズムとその生理機能

 カルノシンはβ-アラニンとL-ヒスチジンからなるジペプチドで、1900年に骨格筋の抽出液中に見出されました。哺乳類の骨格筋に高濃度で存在するほか、脳にも存在し、抗酸化作用、金属をキレートする作用、神経伝達物質様の作用、ヒスチジンを貯蔵する作用などがあると言われていますが、不明な点が多く残されています。類似のジペプチドとしてアンセリン(beta-alanyl-1-methylhistidine)、バレニン(beta-alanyl-3-methylhistidine)、ホモカルノシン(GABA-L-histidine)などが哺乳類、鳥類等の組織中・ノ存在することが知られています。

 蛋白質研究所代謝部門では、自律神経調節やエネルギー代謝調節に関与する細胞外因子として永井(現名誉教授)らはカルノシンに注目し、これが自律神経系を介して血糖や血圧を調節することを見いだしました(Nagai et al. 2003 など)。しかし、その詳細な作用機構とともに、合成と分解に関わる酵素は不明でした。

 哺乳類の組織中にはカルノシンを分解する酵素活性が存在し、その酵素はカルノシナーゼとして古くからその存在が認められていました。しかし、一般的なペプチダーゼにはカルノシンを分解する活性はなく、カルノシナーゼの酵素としての実態は最近まで明らかではありませんでした。我々は、メタロペプチダーゼM20ファミリーに属する酵素のひとつ(CNDP2)がカルノシンを分解し得ることを見いだし、その解析を進めました。その結果、ラット脳の免疫組織染色ではこれが視床下部のヒスタミンニューロンに高濃度に存在することが明らかになりました。ヒスタミンはヒスチジンからヒスチジン脱炭酸酵素によって合成されることから、これらの結果は、カルノシンが脳内でヒスチジンのリザーバーとしてヒスタミン神経をサポートしている可能性を示しました(Otani et al. 2005、Otani et al. 2008)。

 我々はさらに、CNDP2の立体構造解析行いました(楠木正巳現山梨大教授との共同研究、Yamashita et al.2006, Unno et al, 2008)。この酵素はホモダイマーで、それぞれのサブユニットは活性ドメインとLidドメイン(ダイマー形成ドメイン)から成り立っていることがわかりました。さらに、このLidドメインは、ダイマー形成のインターフェースになるだけでなく、反応に重要な働きをしていることが明らかとなりました。現在、この構造から示唆される調節機構、阻害剤の作用機構、生理的意義についてさらに解析を進めています。

 カルノシンについては、永井らは視床下部ー自律神経に対する作用がヒスタミンH3アンタゴニストで抑制されることなどから、脳内ヒスタミン神経系との関与を示しました。これは上記のCNDP2の脳内分布と密接に関連するものと考えられます。また、CNDP1はCNDP2と非常に相同性の高い蛋白質で、やはりカルノシンを加水分解できますが、組織分布や酵素的特性が異なっており、CNDP2とは異なる機能を持つことが考えられます。最近、カルノシンを合成する酵素のひとつが外国のグループによってクローニングされ、今後の新たな展・Jが期待されます。

2、概日リズムとエネルギー代謝調節における蛋白質リン酸化の解析

 私たちはこれまでに、ラット視交叉上核において昼と夜でチロシンリン酸化の変化する蛋白質を見いだしこれが一回膜貫通型糖タンパク質BIT/SHPS-1であることを明らかにしました。さらに、BIT/SHPS-1が寒冷曝露、2−デオキシグルコースの投与などによってもチロシンリン酸化されることなどを明らかにしました。

 また私たちは、マウス脳よりSrcファミリーチロシンキナーゼFynと結合する蛋白質のひとつとしてbeta-adducinを同定し、リン酸化部位を決定しました(Shima et al., 2000, Gotoh et al., 2006)。さらに、リン酸化部位に対する抗体を作成してその脳におけるリン酸化状態の解析を行い、視床下部に存在する特殊なグリア細胞であるタニサイトで高いチロシンリン酸化がみられること、絶食によりbeta-adducinのチロシンリン酸化が亢進するとともに、タニサイトの形態が変化することなどを明らかにしました(Gotoh et al. 2008)。

 BIT/SHPS-1とbeta-adducinばいずれもSrcファミリーチロシンキナーゼの基質であることから、これらの結果は、Srcファミリーとその基質蛋白質が視床下部の神経細胞の情報伝達に関与することを示唆します。これらの蛋白質の神経細胞、グリア細胞における分子機能については今後さらに詳しい解析が必要と考えられます。

3、プロテオミクスによる蛋白質解析法の開発とその応用

 私たちは、これまで恒常性維持機構の解析を行うにあたり、質量分析を用いた蛋白質の同定や修飾の解析法を用いて、リン酸化酵素の基質の同定、蛋白質間相互作用の解析、組織特異的発現の網羅的解析などを行ってきました(Okumura et al., 2008, Kita et al., 2006、Matsubara et al., 2005、Okumura et al., 2003, Shima et al., 2000 など)。その過程で、蛋白質の微量解析の重要性を知るとともに、その難しさにも直面することになりました。現在、腎機能のプロテオミクス解析、尿からのバイオマーカー探索などのプロジェクトに参画してサンプルの解析を行うとともに、サンプル調整法などの方法論の開発を行っています(奥村ら、2010)。