大阪大学蛋白質研究所
生体分子解析研究室

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N末端アミノ酸配列受託分析 509、510号室の所内用共通設備(所内用ページ) 蛋白研HP

主な研究内容

1、ジペプチドの合成、分解のメカニズムと生理機能の解析

2、プロテオミクスによる蛋白質解析法の開発とその応用


1. ジペプチドの合成、分解のメカニズムと生理機能の解析

哺乳類の細胞内にはジペプチド、トリペプチドなどの短鎖ペプチドが多数存在します。その中にはタンパク質の消化・吸収やターンオーバーなど分解の過程で生じるものと、カルノシン(β-Ala-His)やグルタチオンのようにアミノ酸から酵素によって合成されるものがあります。一方、生体内にはこれらを分解するシステムも存在しており、タンパク質の消化と吸収、腎臓での再吸収、各組織でのタンパク質ターンオーバーにおいて重要であるとともに、グルタチオン、カルノシンなど短鎖の機能性ペプチドの機能調節にも必須です。しかし、ジペプチドの機能とともに、各組織に存在する酵素の種類、機能、調節機構などについては詳細にはわかっていません。

われわれは哺乳類の恒常性維持機構の研究を進める中で、カルノシンの生理機能と代謝について解析を行い、それまで機能不明であった金属ペプチダーゼCN2にカルノシン分解活性があることを明らかにしました。さらに、CN2のX線結晶構造解析により構造と機能の解析を行い、CN2の酵素反応がダイマー間の相互作用を必要とすることなどを明らかにしました(Unno et al, 2008)。

また、この反応機構に関与するヒスチジン残基がメタロペプチダーゼM20ファミリーでよく保存されていることなどから、この反応機構はM20ファミリーに共通のものと考えられました。さらに、CN2がラット脳では視床下部のヒスタミンニューロンに高濃度に存在することなどから、カルノシンが脳内でヒスチジンのリザーバーとしてヒスタミン神経をサポートしている可能性が示唆されました(Otani et al. 2005、Otani et al. 2008)。

われわれはさらに、質量分析計(ESI-MS)を用いてCN2の非共有結合性複合体の解析を行いました。われわれは、ダイマーの結合と解離を非変性条件のESI-MSでモニターし、CN2の酵素反応にダイマー形成が必要であることを証明しました(Okumura et al. 2016)。

また、CN2はそれまで活性にMn2+が必要と考えられていましたが、ESI-MSを用いて金属との相互作用の解析を行い、Zn2+結合型がMn2+結合型とは異なる基質特異性を持ったアクティブな酵素であることを明らかにしました。さらに、CN2の細胞内での活性を解析する方法を確立し、CN2が細胞内で主にZn2+結合型として機能していることを明らかにしました(Okumura and Takao, 2017)。

われわれは、これらの知見に基づいてCN2の基質特異性についてさらに検討をすすめるとともに、近縁の酵素の解析やCN2との比較を行うことにより、ジペプチドの分解系の機構と機能の全体像が明らかになると考え、解析を進めています。

2、プロテオミクスによる蛋白質解析法の開発とその応用

近年、プロテオミクスは質量分析法を中心として大きく発展し、研究法として確立されてきましたが、実際の解析においてはサンプル調整や定量比較、データ解析などにおいて様々な個別の課題と新たな可能性があります。われわれは、以前、恒常性維持機構の解析を目的として、質量分析を用いたタンパク質の同定や修飾の解析法を用いて、リン酸化酵素の基質の同定、タンパク質間相互作用の解析、組織特異的発現の網羅的解析などを行ってきました(Okumura et al., 2008, Kita et al., 2006、Matsubara et al., 2005、Okumura et al., 2003, Shima et al., 2000 など)。その後さらに、病理学、細胞生物学、バイオマーカー探索などの諸分野の研究者、ならびに蛋白研高尾研究室との共同研究において、尿路結石のプロテオミクス解析(Okumura et al. 2013)、定量的プロテオミクス解析(Kimura et al. 2013)、翻訳後修飾の解析(Sakakibara et al. 2015)などを行ってきました。現在さらに、個別の課題における問題解決と新たな技術の開発に取り組んでいます。