タンパク質有機化学研究室

チオエステル
合成法

(Peptide thioester synthesis based on N-to-S acyl shift)

最近、蛋白質上に結合している糖鎖、リン酸基などの翻訳後修飾に興味が集まっています。 このため、これらの修飾を持つペプチドチオエステルを固相法により合成する必要がでてきました。 1で最初に開発した方法では、強酸を用いる固相法によりチオエステルを合成していたため、 これらの修飾を入れることは困難でした。このため強酸を用いないチオエステル合成法の開発が世界中で進められています。

私たちの研究室では、その先駆けとなる2つの方法を開発しています。 強酸を用いない場合、塩基性条件を多用した合成法(Fmoc法という方法が代表的です)になりますが、その際チオエステル結合が切断してしまいます。 そこでペプチド結合で樹脂に結合しておき、固相合成後にペプチド結合からチオエステル結合へと変換する方法を開発しました。

A. Cysteinyl-prolyl ester (CPE)法

C末端にCys-Proエステル構造を持つペプチド(CPEペプチド)は中性緩衝液中で自発的にアミドからチオエステルへ変換され、 さらに、分子内で環化することで安定なチオエステルとなります。 この反応系中にCys-ペプチドを共存させるとペプチドチオエステルとCys-ペプチドが縮合して長鎖ペプチドを得ることができます。 このCPEペプチドは自身にはチオエステル結合をもたないため、塩基性条件を多用した合成法でも容易に調製することができます。

(図2)

図2 T. Kawakami, S. Aimoto, Chem. Lett. 36, 76-77 (2007)

B. N-alkylcysteine-assisted thioesterification (NAC)法

 固相合成を始める前にN-アルキル化されたシステイン残基をまず樹脂に導入した後、ペプチド合成を行います。 樹脂から切り出した後弱い酸性条件下にペプチドをおくとNからSへのアシル転位がおこり、平衡状態になります。 ここにチオールを入れると簡単にチオエステルを得ることができます。精製の後に他のペプチドとの縮合を行い長鎖ペプチド、タンパク質へと導きます。

(図3)

図3 H. Hojo, Y. Onuma, Y. Akimoto, Y. Nakahara, Y. Nakahara, Tetrahedron Lett., 48, 25-28 (2007)