核輸送複合体の構造生命科学研究

細胞の「核(細胞核)」は,真核生物に固有の細胞内小器官の一つで遺伝情報を司る分子である DNA を含んでいます.核と細胞質の間は核膜で仕切られていて,核膜孔と呼ばれる「穴」を通して蛋白質や RNA などが移動します.この時,インポーチンやエクスポーチンといった輸送蛋白質と複合体を作ることで,特定の分子が運ばれます.輸送蛋白質が積み荷である蛋白質や核酸をどのように認識するかという仕組みを理解することを目指した研究を進めています.

RNAの核から細胞質への移動に関する構造研究

fig1

図1. pre-microRNAをとらえたexportin-5/RanGTPのミット構造

タンパク質合成に必須のtRNAやRNA干渉の主役であるmicroRNAなどノンコーディングRNAが生命の維持に重要な働きがあることが知られています。これらノンコーディングRNAは核内で転写され、核からそれぞれの働きの場である細胞質に運ばれます。tRNAやmicroRNAの核—細胞質間輸送で輸送蛋白質として機能するのが、importin-βファミリーのexportin-5であります。exportin-5は多種の小さなノンコーディングRNAを認識し輸送します。この輸送蛋白質exportin-5が積み荷であるノンコーディングRNAをどのように認識するかという仕組みを構造的見地から理解するために、積み荷分子との複合体の結晶構造解析を行っています。

これまでに、RNA干渉の主役であるmicroRNAとの複合体の構造解析に成功し、exportin-5が、pre-microRNAの特徴的な構造である3’末端の突出した塩基を認識し、ミット構造でpre-microRNAを緩く掴んでいることを明らかにしました。

転写因子の細胞質から核への移動に関する構造研究

図2. コレステロール代謝に関わる転写因子SREBP-2をとらえたimportin-betaの構造

転写因子は細胞質でリボソームによって合成されます。合成された転写因子は、機能する場である核へと移動します。この移動に関わるのが、importin-α及びimportin-βであります。転写因子はimportin-αにより認識され、importin-βによって核へと運ばれます。これら輸送蛋白質が核への輸送を制御することにより、細胞の機能が制御されていることが知られてきています。importin-αやimportin-βが積み荷である転写因子をどのように認識し、必要な時に核へ輸送するのかという仕組みを構造的見地から理解するために、様々な転写因子との複合体の結晶構造解析を行っています。

これまでに、コレステロール代謝に関わる転写因子と輸送担体importin-βとの複合体のX線結晶構造解析に成功し、輸送担体が転写因子を認識し効率よく運ぶ仕組みを明らかにしました。

Reference

  • C. Okada et al., Science, 326, 1275-1279 (2009).
  • S. J. Lee et al., Science, 302, 1571-1575 (2003).