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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2023.04.28

同じ失敗を繰り返さないために必要な脳内メカニズムを解明

研究成果のポイント

◆失敗直後のドーパミンD2受容体発現ニューロンの活性化が同じ失敗を繰り返さないために必要であることを明らかにしました。
◆従来の研究では、主に成功につながった行動を促進するメカニズムに注目しており、動物がどのように失敗につながった行動を抑制しているのかその詳細な脳内メカニズムは不明でした。
◆同じ失敗を繰り返してしまう精神疾患の治療への応用に期待

図.  同じ失敗を繰り返さないようにD2ニューロンが必要である。

 

概要

大阪大学蛋白質研究所の疋田貴俊教授、Tom Macpherson助教、西岡忠昭博士(研究当時:蛋白質研究所 特任研究員、現:マウントサイナイ医科大学ポストドクター)、理学研究科の大学院生Suthinee Attachaipanichさん(博士後期課程)らの研究グループは、脳の側坐核※1に存在するドーパミンD2受容体発現ニューロン(以下D2ニューロン)の活性化が同じ失敗を繰り返さないために必要であることを世界で初めて発見しました。

私たちは多くの失敗を経験することで、どのような行動をすれば失敗するのかを学習し、より良い行動選択が行えるようになります。最適な行動選択を行うには、成功につながった行動を積極的に行うだけでなく、同じ失敗をいかに繰り返さないようにするかが重要です。しかし、従来の研究では、主に成功につながった行動を促進するメカニズムに注目しており、動物がどのように失敗につながった行動を抑制しているのかその詳細な脳内メカニズムは不明でした。その背景として、複雑な脳機能を理解するには、細胞の種類を切り分けて解析する必要がありますが、ヒトを対象とした研究ではそのような解析は難しく、マウスでは高次な脳機能を調べる行動実験系が存在しないという問題点がありました。

今回、研究グループは、新規的な認知行動課題を開発することでこの問題を解決し、認知行動課題中の一細胞レベルのカルシウムイメージング※2および光遺伝学※3と組み合わせることで、側坐核の特定の種類のニューロンの記録および操作を行い、失敗直後のD2ニューロンの活性化が同じ失敗を繰り返さないために必要であることを明らかにしました。これにより、失敗の経験がどのように脳内にフィードバックされ、同じ失敗を繰り返さなくなる(行動抑制する)のかがわかりました。適切な行動抑制ができない薬物依存症や失敗を恐れて行動することができないひきこもりといった精神疾患の治療にも将来的に役立つことが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌「Nature Communications」に、2023年4月21日に公開されました。

 

研究の背景

私たちは多くの失敗を経験することで、どのような行動をすれば失敗するのかを学習し、より良い行動選択が行えるようになります。最適な行動選択を行うには、成功につながった行動を積極的に行うだけでなく、同じ失敗をいかに繰り返さないようにするかが重要です。しかし、従来の研究では、主に成功につながった行動を促進するメカニズムに注目しており、動物がどのように失敗につながった行動を抑制しているのかその詳細な脳内メカニズムは不明でした。複雑な脳機能を理解するには細胞の種類を分けて解析する必要があるため、遺伝学的なアプローチが有効になりますが、マウスのようなモデル生物では高次な脳機能を調べる行動実験系が存在しないという問題点がありました。

 

研究の内容

研究グループでは、新たに、失敗につながる行動を積極的に抑制する必要がある認知行動課題の開発を行い、マウスがこのような高度な戦略を学習することが可能であることを確認しました。次に、遺伝学的手法を用いて、側坐核のドーパミンD1受容体およびD2受容体発現ニューロン(以下D1ニューロン、D2ニューロン)を区別し、小型顕微鏡を用いて一細胞レベルでのカルシウムイメージングを行いました。その結果、大多数のD2ニューロンは失敗(無報酬)を経験した直後に、素早く活性化することを明らかにしました。さらに、光遺伝学を用いて、D2ニューロンの失敗直後の活性化を阻害すると、同じ失敗を再びしてしまうようになることを発見し、失敗直後のD2ニューロンの活性化が同じ失敗を繰り返さないために必要であることを明らかにしました。これにより、失敗の経験がどのように脳内にフィードバックされ、同じ失敗を繰り返さなくなる(行動抑制する)のかがわかりました。

 

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

本研究成果により、適切な行動抑制ができない薬物依存症や失敗を恐れて行動することができないひきこもりといった精神疾患の治療にも将来的に役立つことが期待されます。

 

特記事項

本研究成果は、2023年4月21日に米国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“Error-related signaling in nucleus accumbens D2 receptor-expressing neurons guides inhibition-based choice behavior in mice.”

著者名:Tadaaki Nishioka, Suthinee Attachaipanich, Kosuke Hamaguchi, Michael Lazarus, Alban de Kerchove d’Exaerde, Tom Macpherson, Takatoshi Hikida

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-023-38025-3

なお、本研究は、AMED「脳とこころの研究推進プログラム(精神・神経疾患メカニズム解明プロジェクト)」研究課題「精神疾患横断的なひきこもり病理における意思決定行動異常とその脳回路・分子ネットワークの解明」およびJSPS科研費研究課題の一環として行われ、京都大学大学院医学研究科 濱口航介准教授、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構大学Michael Lazarus教授およびブリュッセル自由大学Alban de Kerchove d’Exaerde教授の協力を得て行われました。

 

用語解説

※1  側坐核:
やる気や行動選択に重要な領域。主にD1およびD2ニューロンから構成されている。

※2 カルシウムイメージング:
カルシウムに結合すると明るくなる蛍光センサーを細胞に発現させて神経活動を可視化する技術。

※3 光遺伝学:
植物や菌類由来の光感受性タンパク質を細胞に発現させ、光を用いてその細胞の神経活動を活性化および抑制する技術。

 

 

【蛋白質研究所】研究者紹介:疋田 貴俊 教授(高次脳機能学研究室)

 

―ひと言コメントをお願いいたします―

私たちがどのように選択や意思決定を行っているかをマウスを用いて調べていたところ、失敗を繰り返さないための脳内メカニズムを発見しました。この研究が、新しい精神疾患の治療へとつながることを願っています。

 

 

 

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