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ACHIEVEMENTS研究成果

ACHIEVEMENTS

研究成果

プレスリリース

2023.10.16

電極を基質認識できる酵素の反応メカニズムを解明 ―次世代バイオセンシングにつながる基盤技術―

京都大学大学院農学研究科の鈴木洋平 博士課程学生、宋和慶盛 助教、北隅優希 同助教、白井理 同教授、京都大学産官学連携本部の加納健司 特任教授、大阪大学大学院生命機能研究科 日本電子YOKOGUSHI協働研究所の牧野文信 招へい准教授、宮田知子 同特任准教授(常勤)、難波啓一 同特任教授(常勤)、大阪大学蛋白質研究所 田中秀明 准教授らの共同研究グループは、Gluconobacter japonicusという酢酸菌※1由来のフルクトース脱水素酵素(FDH)※2に関する構造解析に成功し、本酵素が有するユニークな触媒反応において重要な役割を担うアミノ酸を特定するなど、酵素反応メカニズムの詳細を明らかにしました。

FDHは酢酸菌の呼吸鎖電子伝達系※3を構成する膜結合型タンパク質で、電極を基質として認識することで“直接電子移動(DET)型反応※4”という非常に珍しい反応を実現できます。本反応は生体・環境への適合性が高く、生体物質の検出に適した理想的なバイオセンサ(第三世代型バイオセンサ※5)としての応用展開が期待されています。FDHはDET型モデル酵素として世界中で注目されてきた一方、そのDET型反応機構は未解明でした。今回、クライオ電子顕微鏡観察※6及び単粒子像解析※7を実施し、2.5 Å(オングストローム)の分解能でFDHの構造解析に成功しました。本結果と電気化学、遺伝子工学の手法を組み合わせることで、本酵素の電極反応部位を特定し、酵素内のトリプトファン(Trp)という芳香族アミノ酸がDET型反応を促進していることを明らかにしました。さらに、数理モデルでFDHのDET型反応を解析し、Trpによる電子移動促進効果を定量的に評価しました。本成果は、FDH及びその類似酵素※8における世界初の全体構造報告例であり、生体触媒を用いた新たなバイオデバイスを社会実装する上で、学術的かつ社会的な波及効果が期待されます。本研究成果は、2023年10月12日に、国際学術誌「ACS Catalysis」にオンライン掲載されました。

<論文タイトルと著者>

タイトル:Essential insight of direct electron transfer-type bioelectrocatalysis by membrane-bound d-fructose dehydrogenase with structural bioelectrochemistry

(膜結合型フルクトース脱水素酵素の直接電子移動型反応に関する構造生物電気化学的考察)

著者:Yohei Suzuki, Fumiaki Makino, Tomoko Miyata, Hideaki Tanaka, Keiichi Namba, Kenji Kano,  Keisei Sowa, Yuki Kitazumi, Osamu Shirai

掲 載 誌:ACS Catalysis, 13, 13828 (2023)

DOI: 10.1021/acscatal.3c03769

プレスリリース資料はこちらをご覧ください。

フルクトース脱水素酵素(FDH)のDET型反応及び生体内における電子移動経路

用語解説

<用語解説>

※1 酢酸菌:食酢の製造に用いられる微生物。

※2 フルクトース脱水素酵素:フルクトースをケトフルクトースに酸化する酵素。

※3 呼吸鎖電子伝達系:複数の酸化還元反応を組み合わせ、生物がエネルギーを獲得する代謝系。

※4 直接電子移動型酵素電極反応:酵素反応と電極反応が共役した反応を“酵素電極反応”と呼びます。その中でも、酵素が電極と直接的に電子移動できるものを直接電子移動型と呼び、本文中ではDET型反応と記載しています。

※5 第三世代型バイオセンサ:酵素を利用した電気化学バイオセンサは3種類に分類されています。現在巨大な市場を形成している血糖値センサに代表される第二世代型バイオセンサは、酵素と電子伝達メディエータ、電極の3つの要素から構成されています。第三世代型バイオセンサはDET型反応を利用するため、酵素と電極のみの理想的なセンサ構成を実現でき、電子伝達メディエータに伴う副反応リスクや毒性、製造コスト高などを回避することが可能です。

※6 クライオ電子顕微鏡観察:タンパク質などの生体試料を含む溶液を急速凍結し、薄い氷に包埋することで、生理的な環境に近い状態で電子顕微鏡観察を行う手法。

※7 単粒子像解析:電子顕微鏡で撮影した多数の生体分子像から、立体構造を決定する構造解析手法。

※8 FDH及びその類似酵素:膜結合型タンパク質の中で、ヘテロトリマー型のフラボヘモ/キノヘモ/メタロヘモタンパク質を指します。FDHはヘムcを持つヘテロトリマー構造で、触媒活性部位にFADを持つためフラボヘモタンパク質に分類されます。類似酵素としては,触媒活性部位にPQQを持つキノヘモタンパク質や、モリブデンコファクター(MoCo)を持つメタロヘモタンパク質が存在します。

【蛋白質研究所】研究者紹介:田中 秀明 准教授

本研究では、クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析により、フルクトース脱水素酵素(FDH)の立体構造決定に成功しました。2.5Åという比較的高分解能で構造決定できたことで、アミノ酸側鎖の配向も正確に決定することができ、本酵素の働きにおいて鍵となるアミノ酸を特定することができました。今後もこのような異分野間の共同研究により、社会に還元することができる新しい技術の開発に貢献していきたいと考えています。

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