研究概要

 私たちのからだは、たくさんの細胞からできています。それぞれの細胞が正しく機能することで我々は健康に生きることができます。細胞の中はどのような状態にあるのか、何が起こっているのかを知ることは、生命を理解するためにとても重要です。そこで我々は、小さな蛍光ダイヤモンド粒子を使って細胞内のナノ領域の環境を計測する方法の開発、細胞内の局所温度を計測し、温度変化が細胞機能にどのような影響を及ぼすのかについて調べる研究を行っています。また、個々の細胞からのタンパク質の分泌を実時間イメージングすることができる蛍光顕微鏡を提供し、複数の研究室と共同研究を行っています。

主な研究内容

細胞内局所温度計測技術の開発

図1.細胞内温度イメージング

 体調が悪いとき、まず体温を測ることが多いと思います。このように、温度は私たちの体にとって重要な生理的パラメータです。いっぽう温度は物質の状態を表す、基本的な物理的パラメータの一つとして、体内におけるあらゆる反応を支配しています。そこで私たちは、一つ一つの細胞の温度変化に着目し、それが細胞の機能や、臓器から個体といった、より高次の生命現象に与える意義の解明を目指しています。そのために、各種の細胞用の温度計を新規に開発し、様々な蛍光イメージング技術を組み合わせて、細胞の温度変化を測定する“細胞内温度イメージング法”を開発してきました。これまでに細胞内温度イメージング法を用いることで、例えば一つの細胞の中で、核と細胞質とでは温度が異なり、核の温度の方が高いことを示唆する結果を報告してきました(図1)。これらの結果から、細胞内の局所温度と細胞機能との関連性が伺えます。また細胞内温度イメージング法を活用して、温熱療法の細胞レベルでの評価といったバイオメディカル分野への応用も進めています。

 

 

蛍光性ナノダイヤモンドによる細胞の量子センシング

 細胞内ナノ領域の環境(温度・磁場・電場など)が生命現象に与える影響を知るためには、それらを計測可能なセンサーの開発が不可欠です。そのようなセンサーとして、蛍光性ナノダイヤモンド(FND:Fluorescent nanodiamond)が近年注目を集めています(図1)。FND内部に存在する格子欠陥の一種である窒素空孔中心(NVC:Nitrogen-vacancy center)は非褪色性の安定な蛍光を発し、また、NVC内部の電子スピンの量子状態はNVC周囲の環境を鋭敏に反映し蛍光信号へと投影されます。このような性質を利用することで、FNDは細胞内ナノ領域の物理量を定量的に計測可能な“量子センサー”として応用可能です。
 我々はこれまで、FNDの量子状態を計測可能な光検出磁気共鳴(ODMR: Optically detected magnetic resonance)顕微鏡を開発しました。ODMR顕微鏡を用いることで、これまでに細胞内ナノ領域の温度計測および熱伝導計測に成功しています(図2)。現在は、FNDの表面を化学的にコントロールすることによってその機能を精密に制御し、細胞の熱感受システムを解明する研究を進めています。

図1.蛍光性ナノダイヤモンド(FND)と   窒素空孔中心(NVC)の模式図
図2.FNDによる細胞内温度計測

1細胞分泌実時間イメージングを使った免疫応答の解析

 細胞が分泌するホルモン、サイトカイン細胞外小胞などの細胞間メッセージ物質は、細胞が情報をやり取りし、協働的に生体システムを制御していく上で重要な役割を果たしています。近年、微細加工技術・マイクロ流体技術の発展に伴って細胞分泌を1細胞単位で定量解析する技術の開発が世界中で進められています。その結果、同じように刺激した同じ種類の細胞でも分泌するかしないか、また、分泌するとしてもその量やタイミング、リズムが異なっているなどの個性が見られることがわかってきました。私たちは、このような細胞分泌のありのままの姿を可視化する“1細胞分泌実時間イメージングプラットフォーム”を蛍光サンドイッチ免疫染色法と全反射蛍光顕微鏡技術を融合することによって開発しました(図1)。例えば、炎症やアレルギーを誘導するサイトカインが活性化された免疫細胞から盛んに分泌される様子を観察することができます(図2)。
 このプラットフォームは、マウスから採取した細胞やヒト臨床検体細胞、ES細胞、iPS細胞などに応用できることから、精密医療における機能的血液診、創薬における表現型スクリーニングや毒性評価、再生医療における細胞製剤の品質管理や効率的な分化制御の評価など様々な応用が期待されます。
 本研究室は1細胞分泌実時間イメージングプラットフォームの共同利用を提供しています。また、本技術の社会実装の試み(株式会社ライブセルダイアグノシス)も行っています。ご興味のある方はご連絡ください。

図1.1細胞分泌実時間イメージングの原理
図2.免疫細胞がサイトカインを盛んに分泌している様子